寒い、一言につきる。寒い。はっきりと冴えてしまった目を、冴えさせた原因は確実にこの寒さである。布団の中でうずくまりながら、ようよう窓の外を窺うとどうやらちょうど朝日の出る前らしい。太陽が沈んで、昇るまでに、一番近い時間。一番、凍える時間。隣にはいつもいるはずの温かさがなく、人一人いないだけで、目を覚ましてしまうほど温度が違うものだろうかと眠りのふちで思う。
彼はどこにいるのだろう。わたしにはわからないことだけれど。──ただひとつ、わたしにも許されることは、彼の体温を奪ってしまうような誰かに会わないことを、祈る、ということだけである。
足先を手でさする。あまり温かくはならないが、だんだんと瞼が降りてきた。あと少し、手の動きも止まって、瞼ももう閉じている。彼のことを考える、微睡んだ時間。
ふ、と、扉の向こうに気配が現れた。まるで、今そこに瞬間移動でもしてきたように突然に。身構えたのも数瞬、すぐに身体は眠る体勢に入る。これが敵なら(まあ、そうでなくとも)この反応は、忍として失格だけれど、あの気配ならいいのだ。扉がゆっくりと開く。足音すらたてずに入ってきた人は、予想通り、愛しい彼だった。なんとか意識を睡魔から救いながら、彼がここにもぐるまで耐える。ごそごそと、身支度をする衣擦れの音がして、それから布団がめくられてほんの少し冷気が入った。
寒い。
何も言葉を落とさない彼は、たぶんわたしが寝ていると思っているのだろう。いつもの位置に収まったのを確認すると、わたしよりも少し冷えた身体に、ぴとりと身を寄せる。彼の腕は背中に回り、その流れで自然と脚が絡まる。
「おかえり、サスケ」
「ん」
そうしていると、やっぱり少し、あたたかい。外では、鳥が動き出した気配がするけれど、わたしたちは、今からねむる。
2011.12.05