啄むようにの唇に触れる。夢にまでみたその感触をもう手放すことはできなくて、ついには彼女の唇を舐め、驚いて開いた隙間から舌を這わせた。僅かに声を漏らしながらそれでも無抵抗の彼女の口内を弄ぶ。舌を抜いて唇を離した時には彼女との間に銀糸が伝っていた。ゆっくりと開く双眸を見つめる。抵抗しない彼女の真意を探るように。彼女も目を逸らすことはしなかった。
 見つめ合っている、というような状況に居たたまれなくなって目を逸らす。やはり彼女に触れてしまったら、止まれなかった。肩を押して彼女をベッドに押し倒す。自分もベッドに乗り上げて、彼女の手を取った。指を絡める、少しでもこの手の体温から自分の想いが伝わるように。彼女の顔の横で手を縫い止めて、それから首筋に顔を埋めた。

「これが、さっきの答えです」

どの言葉に対する答えなのか、彼女にはわからないかもしれない。それでもそう断りを入れてから手を這わせた。先程自分がされたように、首筋や喉元に唇を寄せる。時々軽く吸いつきながらゆっくりと舐めていくと、途切れ途切れに声が漏れた。初めて聴く声は段々と艶が滲む。もう止めるつもりもなかった。大事にしたいのに壊してしまいたい。一方通行だった想いが通じたかもしれないという少しの過信が行為をエスカレートさせる。服を脱がせる間は手を離して、また繋いで、そういうことを繰り返しながら彼女を貪った。絶え間なくは喘ぎ、その声や振る舞いにイワンは身悶えする。

 彼女の白い胸元に唇を寄せる。ゆるりゆるりと焦らしながら柔肌を弄ぶ。

「あっ……あ、やっ」

彼女の言葉にその意味合いが含まれていないことなどはわかっているが、その言葉を聞いて彼女を弄る指を一旦止めた。
「ほんとうに、嫌ですか」

汗ばんだ彼女の手をぎゅっと握り直す。彼女の身体から顔を上げると、不意に止まった指に彼女は息を震わせ目元に涙を滲ませていた。

「いや、あの、」

目を逸らした彼女を見つめ首筋を撫でる。眉根に皺を寄せ喉の奥で声が漏れる。

「嫌じゃ、ないです」

語尾は消え入りそうなくらい小さく彼女はそう呟いた。その言葉にちゅっ、と音を立てて柔らかい胸元に唇を落とす。いくつか鬱血させ赤い華を咲かせると、絡まっていた指を解いて彼女の腕が背中に回った。それが合図だったかのようにゆっくりと彼女の中に押し入る。身体が熱くて溶けてしまいそうだ、と月並みな言葉が頭を巡った。すべて押し入れて一息つく。

「痛くないですか」
「あっ、は、大丈夫、です」

上気した頬に半開きの唇から赤い舌がのぞく。それらはイワンの劣情を煽るには十分すぎるものだった。
 腰を動かす。自分の気持ちを押しつけるように。彼女の中は段々と収縮し、切なくイワンを締め付けた。彼女の声も段々とと大きく艶美な色を帯びていく。

「……っ、好きです、ちゃん」

たまらずイワンは声をあげた。例え明日彼女が忘れていたとしても。例え明日彼女が離れていってしまったとしても。今ここで音にして伝えないといけないと、そうしないとすべてが嘘になると、イワンはそう思った。彼の動きに身を任せ声をあげていたは、はっとしたように目を見開く。その次の瞬間には彼女は花のように笑った。

「っあ、すき、好きです、イワン、くん」

嬌声をあげながら、それでもはっきりと口に出す。こつんと額を合わせて、唇を重ねる。背中に回った腕には力が入り、ふたりは同時に白い光を見た。

(胸:所有)

2011.07.30